雨音

文:重藤貴志[Signature]

幼い頃、雨が不思議だった。
空から無数の水滴が、いつまでも落ちてくる。
いったい、何が起きているのだろうと思っていた。

父や母に何度も質問したはずだが、まったく回答を覚えていない。
僕は疑問の多い子供だったから、しつこく答えをせがんだはずだ。

あらためて考えてみると、世の中は不思議で満ちている。

たとえば、身の回りにある家電製品は、魔法のアイテムのようだ。
大抵のものは、ボタンを押すだけで、幾つかの手間を省略してくれる。
ただ、間違いなく便利にはなったけれど、その仕組みはよくわからない。
どこかが壊れてしまうと、素人には修理することすらできないのだ。

いつからか、それが当たり前になってしまった。

大人になっていくにつれ、よくわからないことは、
「ワクワク」から「イライラ」に変わった気がする。

考え方が変に凝り固まってしまったからだろう。

インターネットで検索すれば、すぐに答えは見つけられる。
そんな勘違いをしてしまうほど、確かにPCやスマートフォンは便利だ。
でも、情報を得られたからといって、本当に理解できたとは限らない。

何だかよくわからないものに、どう向き合っていくか。
もしかすると、それが人生を面白がるコツなのかもしれない。

雨がアスファルトを叩く音は、まだ続いている。
僕は、今も雨が降ることを不思議だと思っている。