コンフューズ

文と写真:碇本学

仮面のしたにあるもの
そこにないもの
あるいは孕まれないものについて
ぼんやりと考えながら歩いてみた
暑さで蜃気楼ができるってことはない
湯気が立つほどの人もいない
眼鏡に汗が落ちると視界がクリアさでいびつさ
通りすぎる人の匂いがふわっと漂って
すぐに空の方に上っていくそんな感じ
のイメージがあって独特なそれぞれのもの
名前って仮面になったりするのかな
あるひとつの名前を違う人が使ってみる
固有名詞とその身体は結び付けられて
対する人には認識されるから
まったく同じ名前の人が現れても
やっぱり違う人なのに名前だけ同じだったら混乱する
コンフューズっていうの
カオスに近い黄昏みたいなものが発生しそう
近所の猫はいろんな家に遊びに行った先で
きっと呼び名が違う
だけどもその猫の身体はひとつ
名前はたくさん
人間でそれを逆にやったらやっぱり複雑すぎる
固有名詞と身体が結びついてひとりの存在
違う場所で異なる名前を使い分ける人たちは
混乱しないのだろうか
名前の数だけ人生があったらやっぱりコンフューズ
使い方あってるのかな
例えば亡くなった友人の名前を自分の名前として
初めて会った人に自己紹介したりすると
この身体にふたつの名前が宿ってしまう
まるで多重人格者
名は体を表すって言うけど
いくつも持ち合わせてたら体はどうなるの
やっぱりその数だけ引きちぎられてしまうのか
亡くなった友人の名前を使ってしまった男の子の話を書こうと思う
最後にはその名前が消えていく
残るのはなんなんだろう
そんな話の断片が浮かんだ
ここにしかないって言うから
ここにしかないって言って
歩きながら聴いていた音楽の歌詞がそんなことを言っていた
仮面のしたにあるものが自分だけだって
どうやって信じられるかっていう実験をしてみたい
コンフューズしないで生活できそうかな
いろんな感情を仮面のしたに忍ばせているから
きっと生活はできるし続いていく
大切な人の前ではひとつの名前だけ
ひとつの世界だけでいい