珈琲と煙草

文:重藤貴志[Signature]

珈琲を好きになったのは、何年前のことだったか…。
自分の意志で飲みはじめたのは、おそらく高校生くらいだろうと思う。
当時は自分を大人っぽく見せるためのアイテムの一つであり、
苦味に目を白黒させながら、かなり背伸びをして嗜んでいた。

最初から今に至るまで、珈琲には何も入れたくない。
甘い飲み物は苦手だし、牛乳は匂いを嗅ぐのも御免だ。
結果、ハードボイルドならぬ好みの問題から「珈琲はブラック」となる。

そういえば、大好きな煙草のパッケージも黒一色に金文字のものだった。
一般的には“JPS”と呼ばれることが多い“John Player Special”は、
どちらかといえばマイナーな煙草で、自動販売機における取り扱いが少なく、
東京、京都、徳島…と住む場所を変える度、まずは販売店を探し回ったものだ。

一人で暮らしていた頃、珈琲と煙草は切っても切れない関係だった。
どちらを切らしたときも、何だか落ち着かないような気分がした。

今は煙草を吸うことがなくなったが、珈琲を丁寧に淹れるようになった。
信頼できる店で珈琲豆を買い、自分の手で挽く時間を、大切に考えている。

珈琲の味がわかるようになったかどうかは怪しいものだが、
少なくとも、無理をせずに飲むことができるようになった。

あの頃よりも、大人になっているのは、きっと間違いない。
珈琲の苦味の奥にある複雑な味わいを知るには、年月が必要なのだろう。