なにひとつ

文と写真:碇本学

走行中の車から手を出して
感じる風の気持ち良さ
BGMは少し早い夏の風物詩
いつだって
自分の弱さを隠すように話し続けて
守っていたものは
簡単に吹き飛ばされてしまった
君のものなんて
なにひとつ
なにひとつないんだよって
知ってるけど聞きたくないよ
そんなこと
まっすぐな視線は
目のやり場に困ってしまうから
自分がどんどん卑屈になる前に
ドアをあけて飛び出そう
忘れてたふりした過去が
ふいに訪れる
まるで蜃気楼みたい
実体はないのに見えてしまう
祝福と呪縛は
ベクトルの向きが違うだけ
いつだって歩くように小説を読んでみる
声に出して呼びたい名前を
いつだったか風に飛ばされて
つかみ損ねたまま
僕の名前だって
宙に浮いたまま
流れる景色と手に当たる風
どうかどうか
今度は掴めるように
声に出せるように