往復書歌

文:大塚いちお 題字:河村杏奈

 

無敵の日々/THE GROOVERS

追われているのか、追っているのか。

ただ走っていた。
立ち止まればヤラれるかもしれない。あわてて先を急げば、深く暗い穴に落ちるかもしれない。
そんな時、道の真ん中になにか煌々と輝く何かが落ちていたりしてみろ、そりゃ踏んづけたり蹴飛ばしたり、いやいや、やさしく拾い上げたりするだろ。
するとどうだ。むくむく力が沸き上がって、突然体が大きくなり、空だって飛べるし、どんな武器だって、誰が来たって負けない自分になれるんだ。
でも、その後調子に乗りすぎて、やりすぎて、うっかり深く暗い穴に落ちちゃうんだけどね。
その時思ったんだ。もう少し大事に使っておけばよかったって。
それともう一つ、さっき拾ったあれは何なんだったって。

突然のゲームオーバーで我にかえって、現実の世界でその無敵パワーを探す。
時々、車運転してる時に道路に何か落ちてるじゃないか。スカーフだったり、帽子だったり、靴だったり。
靴ってどうやって落としてるのか不思議ではあるけど、そんなものはおそらくさっきのモノではなくて、まぁそもそも煌々と輝いてもいないし、靴踏んづけたところで何も起きやしない…はずだ。

ゲームの世界にあったモノ、そんな無敵パワーのアイテムは、現実の世界にはない。
「じゃ、目にはみえないものは?」
クサいこと言うね。

「DO YOU LOVE ME?」
おいおい、そうか、ひとりぼっちでいずれ消えてくこの世界で生きてる今、ひとりは寂しいけれど、誰かがその「DO YOU LOVE ME?」に、もしも『Yes』と答えてくれるなら、もしかしたら、それだけで、それだけわかれば走り続けることだってできるのかもしれない。
深く暗い穴なんかが、たくさんあったって。
それだけでいいんだ。
単純なことだ。
それさえわかれば「無敵の日々」だ。