2019年3月22日 (金)

盗まれたものの行方

文:重藤貴志[Signature]

さっきまで机の上にあったボールペンが消えた。
ほんの数秒前にメモを取り、そこに置いたのに。

集中力に欠けている上、注意力が散漫なせいか、
昔からいろいろなものをなくしては探し回ってきた。
最近では加齢による物忘れも加わってきた気がする。

しかし、このボールペンの消失は只事ではない。
いくら何でも、見えなくなるまでの時間が早すぎる。

狼狽しながら周囲を見渡し、山積みの資料の束を動かす。
床に這いつくばってゴミ箱をどかしても、ボールペンはない。

「もしかして、妖精の仕業では…」という思いが頭をよぎる。
意地の悪い微笑みを浮かべながら、魔法で盗んでいったのだろう。
我ながらひどい発想だが、そうでも考えなければ説明がつかない。

たまに紛失したものが妙なところから出てくることがある。
あれも同じ妖精の悪戯だとすれば、辻褄が合うではないか。
しばらく玩具にして遊び、飽きたから返してくれたに違いない。

妖精が持っていったのだから仕方がない。
大きな溜め息を吐き、潔く探すのを止めた。

そのうち、ボールペンも出てくるはずだ。
だが、盗まれたものは、どこへ運ばれていったのだろう?

かすかに甲高い笑い声が聴こえたような気がした。

Hw_sgt_photo_023

|

2019年3月 8日 (金)

日常に美しさを

文:重藤貴志[Signature]

日常の品としてつくられたものが芸術として評価されることがある。
たとえば、気の遠くなるような精緻な細工が施されている壺や皿。
熟練の職人たちによる作業の積み重ねが、それを見る者の感動を生む。

インドネシア語で「芸術」に相当する言葉は“seni”というそうだが、
これはもともと「細かい」という意味だったと聞き、面白いと思った。
芸術という概念がないのだから、きっと芸術家もいなかったのだろう。

» 続きを読む

|

2019年2月23日 (土)

コーヒー&ドーナツ

文と絵:小林賢恵

自分の飲みたいもの、食べたいものがわかるって、
幸せなことだなと思う。
選べるのは、知っているから。
その飲みものや食べものの香りや温度、食感、そして味を。
それは、人生の経験値。
生きてきた時間や行動が
大げさに言えば、間違っていなかった、
活かされていることだから。

» 続きを読む

|

2019年2月 1日 (金)

何も言わなくても

文:重藤貴志[Signature]

言葉を交わさなくても、言いたいことが伝われば――。
誰にでも、年に何度かはそう思う瞬間があるのではないか。

人が言葉を手に入れる前、遥かな昔はどうしていたのだろう。
視線や唸り声、身振り手振りで意志の疎通はできていたのか。
そんなことを考えていると、夜も眠れなくなってしまう。

» 続きを読む

|

2018年12月 7日 (金)

時、留まらず

文:重藤貴志[Signature]

年の瀬が迫るにつれ、何かと気忙しくなってくる。
ラジオからはクリスマス・ソングが流れはじめ、
ケーキの予約を急かすコマーシャルが焦りを助長する。

一年が過ぎるのは、どうしてこんなに早いのだろう。
ふと気がつけば、いつの間にか季節は巡っている。

» 続きを読む

|

2018年11月 9日 (金)

手が失ったもの

文:重藤貴志[Signature]

ずっとPCのキーボードを叩いていると、
手が大きな溜め息をついたような気がする。

特に痛みを感じるわけではないけれど、
無言で「ほかのことをさせてくれ」と訴えてくる。

» 続きを読む

|

2018年11月 3日 (土)

惑わされて

文と写真:碇本学

Cid_182d8293bf074427a24b5fcb02c0fd1

» 続きを読む

|

2018年9月15日 (土)

土までの距離を思う

文:重藤貴志[Signature]

普段よりも長い距離を歩くと、翌日には足の裏が痛くなる。
最大の原因は、不摂生と運動不足であることは間違いない。
だが、踏みしめる地面の硬さも大きく影響しているだろう。

» 続きを読む

|

2018年9月 7日 (金)

アンドゥトロワ

文と写真:碇本学

Cid_54ec6d0e22d3432db615504f9fe86ea

» 続きを読む

|

2018年8月31日 (金)

厨房へ入り浸る

文:重藤貴志[Signature]

下手の横好きだが、自分で料理をするのは苦にならない。
ベースになっているのは、何と言っても母のつくる食事である。

「家事は嫌い、料理は面倒」と笑いながら公言する母だが、
いつもその手際は魔法のようで、食卓には多くの皿が並ぶ。

» 続きを読む

|

«白いライン