大事なもの

文と絵:小林賢恵

クッキーの缶をもらった。
「全部食べ終わったら、ちょうだい」と約束していたから。
花の形をした白いかわいい缶。

クッキーが重ねて入っていた、
ぺらぺらのプラスチックの容器を出して、
缶をひっくり返して底を叩く。

トントントン。
はらはらと落ちる白く小さなクッキーの粉。
空っぽの缶の底を指でなぞってみる。
指にクッキーの粉がつく。
ぺろっ。
ちょっぴり甘い。

缶は底も側面も金色。
でも、曇っていて、のぞいても、顔がぼわぁんと映るだけ。
クッキーはもうないけれど、
バターとお砂糖の甘いにおいは残っている。

宝物を入れたいな。

机の引き出しを開け、中に入れるものを探す。
シール、色つきの封筒、メモ帳、
プラスチックの透明のビーズ、においのついた消しゴム。
大きいものから順番に入れてみる。
四角じゃないから、ぴったりとは納まらない。

フタを閉じて、また開ける。
クッキーのにおい。

なんか違う。
これは宝物じゃない。
だって、誰かにあげたり、交換もできる。

大事なものってなんだろう?

缶の中から、シールや封筒、メモ帳、ビーズ、
消しゴムを取り出して、机の上にばらばらと置く。

何を入れようか?

空になった缶のフタを閉める。
閉めたときに、また、クッキーのにおいがした。

缶を肩の上にのせて
平らな底を鼓みたいに手のひらで叩く。

タンタンタン。
タタンタンタン。

叩きながらスキップ。
ソファの上に乗って跳ねてみる。
クッションもいっしょに弾んでいる。

あっ。

手がすべって、缶をはたき落としてしまう。
缶は床を転がっていく。

カラカラカラカラ、カタン。
カタカタカタ。
窓に当たって止まる。

外は雨

窓を開けて、手だけを伸ばして、缶を庭先に置く。
フタをとると、雨の滴が缶をめがけて落ちてくる。

ダンダンダン。
ダダッダンダン。

窓辺にしゃがんで、缶の中に雨がたまるのを見ている。
金色の底に小さな水の玉ができては流れていく。

葉っぱと土と雨のにおい。

びゅっと強い風が、レースのカーテンを揺らす。
雨が吹き込む。

慌てて窓を閉める。
レースの網目越しに見える白い缶。

シュンシュンシュン。

窓を背に部屋に向き直ると、
キッチンではお湯が沸いている。
ふんわりと温かな空気。

外は雨。