明日はいつも通りでしょうか

文と写真:碇本学

ふわっと舞う糸屑の名残惜しさを再び空に放つと
ライトアップされた桜の木に呼ばれて微笑んで落日
大きく息を吸いこむ
吸って吸って吐いて吐いて、吸って
藍色が肺に満たされて色彩が変わります
明日はいつも通りでしょうか
笑いながら過ごした日々が懐かしいのですとイヤフォンから溢れだした
自転車のさびついたブレーキ音が夜の隙間に流れ落ちて
もう少しさびついていく
見失った糸屑が桜の遺伝子に染み込んで
来春には見たことのない色が咲くのでしょうか
油をささないブレーキはいつかひまわり畑を汚してしまう
緑道のそばのマンションの上の方に何かの穴があって
昼間にはインコが行き来しているのだけど
飼い鳥なのか遊びに来ているのか知らぬまま
インコはそこで子育てをして世界に色を増やして増やして
通りすぎていくランナーのシューズと帽子のリフレクション
シルバーに光って遠ざかって夜に落ちていくみたい
明日もいつも通りでしょうか
パレードはやってこないらしいよ
聞こえてくる音楽に軽くハミングして
リズムに追いつこうとした腕が動いて
宙を踊りながらタクトした方向に切れかかる街灯のあかり
暗がりに溶け込んだ黒猫が飛びだしてきて
淡いピンクがふわりと咲いて消えていく