ごくありふれた

文と写真:碇本学

段々畑みたいなマンションが前方に見えた
ブルーとしか言えない空が上を覆っている
日差しが乱暴にアスファルトに降りそそいでいた
交通表記の「止まれ」を通り過ぎてふりむいたら
「れま止」と白文字が浮かんでいた
ストップ・サマー・シーズンって言葉が口から出てくる
だけど 反対側にある言葉だから
「止まれ」が反転して「進め」だってことだ
ムーブ・サマー・シーズンで合ってる?
文法合ってるかどうかすぐに判断すらできない
僕は英語ができないよエイミー

蝉はまだ鳴いてなくて
通り過ぎるママチャリもベルを鳴らさない
音はかすかな生活音だけで
特別な日じゃない
ごくありふれた七月の一日
家を出るときに僕は今日が誕生日の人にメールをした
返信があって見てみるとその人からの言葉は
すべて英語で書かれていた
日本語で送ったお祝いの言葉が
英語で返ってきたことの意味を
七月のありふれた一日の昼過ぎに思う
もしかして日本にいないのかっていう
返信はどこかの国で借りたようなスマホだったりしたら
それって日本語が打ち込めないからオール英語になって
Thanks a lot! で始まるその文章はどこからやってきたのだろう

段々畑みたいなマンションを横切ると大きな日陰ができていた
これっていわゆるエアメールってやつかもしれない
大通りに出るとちょうど赤信号になってしまった
目の前をどんどん車が走り去っていく
クーラーがバンバンに効いてる
車内のBGMはもう夏の気分かも
雨降りのジューンブライドはもう常夏で水着で泳いでる
日焼けした水着のあとは秋ぐらいまで消えないでいてほしい

夏へ進めとiPod nanoをシャッフルする
テンションに合う曲が出てこないから
何度も何度も次へ次へ
気がついたら青信号が点滅してる
日差しを受けて走る
再生された曲のリズムで白線を渡りきる
ごくありふれた七月
誰かの誕生日だった一日
ふりむくとモクモクと真っ白い雲が見えて
段々畑のマンションにかかったアイスクリーム
ごくありふれた夏のはじまり