奇跡を待つ旅人

文と音楽:田辺マモル

これは今からもう25年ぐらい前に書いた歌を作り直したものだ。
歌詞はそのままに、新しくメロディをつけ直してみた。

子どもが欲しくてなかなかできない夫婦の歌なのだけど、歌詞を書いた25、6歳頃にはまだ僕は結婚もしていなかったし、フィクションの歌ということになる。
僕より一回り年上のレコード会社のディレクターさんから「友だち夫婦が不妊治療を始めて…」という話を聞き、大人にはそういう悩みもあるのだなあと思って作った。
当時の僕はと言えば、多くの若者がそうであるようにむしろ、どうしたら子どもができないかの方に頭を悩ませていたのだけれど。

結局その歌を発表することはなく、30代になり、歳を重ねるに連れて自分の身の回りでも「子どもができなくて…」という話を聞くようになった。
「体外受精でようやく子どもを授かった」という友だちもいた。
「姑に言われて検査したら夫の方に問題があったのよ」というような話も聞いた。
僕も結婚はしたけれど、自分のことで精一杯で、子どもを持つことは考えられなかったし、妻も同様にそれを望んでいなかったので、子どもができないという悩みは他人事のようだった。

子どもができるようなこともしていなかった。
妻とは二十歳の頃からの付き合いで、籍を入れたときにはもう倦怠期をはるか昔に通り越し、離婚危機を何度かくぐり抜けたあとの老夫婦のようだった。
彼女は会社員で、生活時間がまるで違っていたので、別々の部屋で、それぞれのベッドで眠っていた。
部屋には鍵もついていた。
家計も別で、バブルの頃なら「DINKs」と呼ばれていただろう。
妻は「20代にし過ぎちゃったね」とか「したいなら他でしていいから」とか言っていて、バブル後なら「仮面夫婦」と呼ばれていただろう。

「子どもは?」と人から聞かれることもあったが、そういうときには「ターザンのセックス特集で読んだんだけどね、精子を作る栄養素の入った食べ物って実はすごく少なくて、牡蠣と椎茸からしか摂れないんだって。僕は両方とも嫌いで食べたことがないから、ダメみたいなんだよね」とか言っていた。
雑誌には確かにそう書いてあったんだけど、今ネットで調べてみたらそんなことはないようである。
牡蠣と椎茸を食べなくとも、子どもはできるのだ。
そう、できてしまったのだ。

なんだか長くなってしまったので、話の続きはまたいつか。