あたらしく

文と写真:碇本学

指のすきまを通り抜けていく
やわらかい髪
小さな頭蓋骨だなって思って抱きしめた
あの頃のことを思い出させる
桜の散りかた
パスケースをなくしてパニクった目黒川沿い
涼しい風が狭い道路を駆け抜けて
人々の端っこを揺らしていく
再開発途中の景色は止まらずに
完成形に向けて進む作業は
儚くてどこか誇らしい
みんなすべて忘れてしまう
忘れていくことを忘れながら
覚えていることが本当のことかなんて
思っている側から
永遠が指のすきまを
通り抜けて微笑んだ
それって本当にあったことだっけ
さあ、どうだか
スマホで撮った写真は
眼球では捉えれない
光の波を
それはあるのに見えていない
黄色い小さな花とゆるやかな上り坂
歩く人たちで進めないトラック
軽いクラションの響き
夢に出てくる人には
歩いていても
出会えないらしい
顔も忘れてしまったまだ見ぬ人へ
桜が散った新緑の光の中で
すれ違おう
あたらしく微笑みながら